EUにてスマートフォンのバッテリー交換規制が強化され、2027年にはバッテリーを容易に交換できる機種でないと、同地域では販売できなくなる見込みだ。これについてメーカー各社も既に手を打ち始めている。今回は最新の動向について追ってみよう。
現状の機種でも、交換用の工具を付属させれば規制はクリアできる
現在報道されるEUのバッテリー交換規制は、従来の携帯電話のように「工具なしで交換」できる状態を強制するわけではない。工具なしでの交換方法以外に、市販の工具を用いて容易に交換できる構造にすること、市販の工具で修理できない場合は、専用の工具などの修理に必要な道具を部品とともに無償で提供することで規制をクリアできるとしている。
例えば、バックパネルがプラスねじで固定されている構成の機種はもちろん、従来のiPhoneでもねじを外すための専用ドライバー、画面やバッテリーを固定する接着剤を溶かす薬品などを交換部品と一緒に付属する場合は、この規制をクリアできることとなる。
もう1つがバッテリーを容易に交換可能とするため、その手順を容易にすることも規制に含まれている。どちらかといえば、メーカーとしてのハードウェア設計が問われるのはこちらだ。
現状のスマートフォンのバッテリーを交換するにあたって難関なのが、バッテリーの交換時に取り外す「フレキシブルフラットケーブル(以下、FFC)」と呼ばれる細い配線や、粘着テープなどで強固に固定されたバッテリーだ。
FFCは、各種センサーや本体下部の基板とメインボードを接続するのに利用されているケーブルのこと。これを分解するときに不用意に引っ掛けたり、無理やり外したりすると、断線やコネクターの破損によって故障の原因になる。バッテリーも事故防止のため、専用の粘着テープなどで強固に固定されており、これも無理に外そうとするとバッテリーが変形して思わぬ事故の原因になる。また、これらを処理する作業手順も増えることから、容易に交換する妨げとなっているのだ。
比較的修理しやすいiPhone、サムスンはGalaxy S23から新タイプのバッテリーを搭載
EUの規制を見越してか、修理の難度には変化が生まれつつある。iFixitが公開しているiPhone 14のバッテリー交換手順を見ると、バックパネルを開けるとすぐバッテリーにアクセスできるようになっている。バッテリーの上にはFFCといったものは存在せず、ユーザーは比較的容易にバッテリーを交換できる。
また、スマートフォンでは本体設計の関係で、画面側から分解してバッテリー交換を行う機種も多く、これらの環境では画面を外そうとした際に、画面側のケーブルやコネクターを破損させてしまう可能性が高い。そのような意味でも、バックパネル側からバッテリーの交換ができるiPhoneは「修理しやすい」機種といえる。
Android端末ではサムスンのGalaxyが既に対応を進めている。2023年発売のGalaxy S23シリーズから新しいタイプのバッテリーが搭載されており、そのバッテリーにはタブのようなものがついている。このタブを引っ張ると容易にバッテリーが外せる仕組みだ。
バッテリー交換規制を求める背景は? 交換可能になることの懸念も
最後にこの規制の背景と懸念点を考えてみる。スマートフォンを簡単に修理できるようにする取り組みについては、EU内ではドイツなどで根強い「修理する権利」が有名だ。メーカーで高額な修理費を払う以外の選択肢がないことに異を唱えるものであったが、この流れや各種環境意識の高まり、物価上昇の影響もあって消費者には「長く使えるスマートフォン」に関心が高まっていることは事実だ。
その結果か、 Appleやサムスンをはじめ、今ではXiaomiも長期のソフトウェアアップデートをアピールする背景には、欧州地域の「長く使う」という意見が反映されているように考える。
中でもフランスでは「修理可能性指数」の表示が、スマートフォンなどの製品に対して進められている。この指数は分解修理の難易度、修理用部品の入手性、供給期間の長さなどの要素を数値化し、最大10点の点数がつく。このスコアが高ければ修理しやすく、部品も入手しやすくなる。
また、中古市場には品質の伴わない自己修理品が出回る可能性が高く、消費者が中古市場で購入するにはそれを見分ける「目利き」が必要になってくる可能性があるのだ。品質の劣る純正以外の部品はスマートフォン側で弾くことはできても、「純正品を用いた個人のDIY修理」となればスマホ側で検出することは難しい。そのような理由から自己修理における品質をチェックする方法の確立、中古品ではセルフリペアといったランク付けが必要になってくるのではないかと考えられる。
消費者の環境意識の高まりから、バッテリー交換規制が必要になることは理解できるが、消費者が自己修理によって品質を担保できるかについては検討されていない。このような部分も手順の簡略化や素材の変更など、品質担保できる仕組みの構築でメーカー側も対応することになると考えるが、このようなコストは最終的に端末の価格や修理価格に返ってくることになる。あと4年間の猶予があるうちに、行政もメーカーもしっかり検討を行わねばならないと考える。